コラム(詳細)

第57回「CRE戦略(その15)…ファシリティコスト」

2008.12/09

経済レポート2236号[平成20年12月9日]掲載

  1. はじめに前回、前々回とファシリティコストについて、その定義、マネジメントの視点、分析方法についてとりあげてきました。今回は「ファシリティコストの面からみた保有か賃借か」をとりあげます。
  2. 自己保有と賃借自己保有する場合と賃借する場合とでは、単に賃料の差額だけがコストの差ではありません。例えば固定資産税は自己保有する場合にはかかりますが、賃借する場合には不要となります。この様に自己保有の場合と賃借する場合のファシリティコストの差も考える必要があります。あるデータによれば、企業の施設運営にかかる1m2当たりの年間費用は自己保有の場合66,000円/m2、賃借の場合108,600円/m2となっており、自己保有は賃借の概ね60%水準に止まり、割安であるという結果が出ています。これは、貸していただくのであるから、その分賃借の方が高くつくという当然のことです。では、自己保有のほうが有利か?最終的には次に掲げる事項等を総合的に勘案すべきです。
    (1) 資本コスト
    自己保有の場合、通常、資金の調達に必要な資本コストがかかります。賃借の場合は内装費や敷金等に必要な資本コストだけですから、通常は自己保有の方が多くの資本コストがかかります。
    (2) 利用や管理上の問題
    自己保有の場合、どうしても未利用部分が発生したり、管理上の非効率性
    (担当者の設置、自主管理による問題の発生等)が生じる可能性が高くなります。
    (3) 機能的陳腐化
    例えば、IT化の進展等に伴うビルの機能的陳腐化への対応コストを迫られる場合等が考えられます。
    (4) 立地環境の変化
    地域の衰退等の立地環境の変化には全く対応できません。
    (5) 突発的事象への対応
    地震等による災害、アスベストや土壌汚染の様に環境問題の高まりに伴う想定外のコスト負担。
    (6) 法改正への対応
    税制改正等に伴うコストアップ等が考えられます。
  3. 最後に以上が、ファシリティコストの側面からみた、自己保有と賃借の比較です。要は自己保有の方が通常コスト的には有利ですが、対応力、潜在的リスク等をも勘案すればケースバイケースといえます。保有するならリスクを覚悟したうえでといったところでしょうか。

    余談ですが、賃借にも諸リスクはあります。特に、近年法改正により短期賃貸借制度が見直しされたため、賃借物件が競売で落札された場合には6ヶ月間の明渡猶予期間で建物を明渡さなければならない、敷金が返ってこないといった事態になることもありえます。

(参考文献)
・CRE戦略を実践するためのガイドライン(国土交通省)
・不動産保有の意味を問う(三菱UFJ信託銀行等)等

以上