コラム(詳細)

第40回「賃料評価(その9)…土地残余法に準じる手法(その1)」

2007.07/24

経済レポート2169号[平成19年7月24日]掲載

  1. はじめに

      これまで不動産鑑定評価基準に規定されている継続賃料を求める4つの手法(差額配分法、利回り法、スライド法及び賃貸事例比較法)について概説してきました。ご周知のようにバブルの発生とその崩壊に伴う不動産価格の激しい変動、賃料改定を巡っての当事者間での厳しい紛争、またサブリースやオーダーリース契約等の新種の契約の出現など、型どおりの評価作業では対応できない局面もあります。
    こうしたなか、東京高裁で衝撃的な判決(平成14年10月22日第19民事部)が出ました。この判決では、4つの評価手法すべてが否定され裁判所が独自に編み出した評価手法(土地残余法に準じる手法)を採用して継続地代を決定しています。そこで本稿ではこの手法についてとりあげます。
    なお、この判決は4つの評価手法すべてを否定したものとも言われていますが、当該事案における適用の仕方やデータの扱い方等に問題があり必ずしも手法自体を否定しているものではないとの見方もあります。

  2. 基本的な考え方

    土地残余法に準じる手法の基本的な考え方については判決のなかでおよそ次のような説明がなされているので引用します。
    「地代とは、結局、この建物賃貸による収益を、土地の賃貸人と賃借人に分配した場合に、土地の賃貸人に帰属する分である。この分配は、双方の協議によりすることが望ましいのであるが、それができない場合は、やむを得ず裁判所が双方の主張を聞きながら、公平に分配する以外にはない。
    土地の賃貸人にしてみれば、この収益は、利用価値のある土地を提供したことにより挙げられるのであるから、その大部分を土地の賃貸人に分配すべきであるというであろう。しかし、収益は、土地と建物双方が揃い、さらに建物賃貸という営業が加わって初めてあげられるのである。したがって、公平に考えれば、土地への資本投下、建物への資本投下、そして建物賃貸という営業それぞれに収益を分配すべきもので、土地の資本投下にのみ、あるいはことさらそれに厚く分配するのは、公平な分配ではない。」
    即ち、家賃収入を地主と借地人で分配し、そのうち地主に帰属する部分が地代であるとする考え方です。次回具体例についてとりあげます。

    (参考文献)
    「判例タイムズ」1059号、1065号、1105号
    「金融・商事判例」1097号
    「賃料評価の理論と実務」賃料評価実務研究会編

以上