コラム(詳細)

第47回「CRE戦略(その5)…使用価値と市場価値」

2008.02/26

経済レポート2197号[平成20年2月26日]掲載

  1. はじめに  CRE(企業用不動産)戦略シリーズの5回目です。CRE戦略の基本は、まず、保有する不動産の分類とその価値の把握から始まります。この場合の分類とは、例えば次のとおりであり、その企業の特徴やCRE戦略の目的に応じた切り口で、不動産の分類を行います。
    〔分類〕
    ・事業用物件と非事業用物件    ・利用用物件と投資用物件
    ・コア用物件とノンコア用物件    ・高リスク物件と低リスク物件
    ・高流動性物件と低流動性物件   ・高収益物件と低収益物件
    ・含み益物件と含み損物件

    次に、その上で、価値の把握を行うこととなるわけですが、CRE戦略の場合、重要なのは使用価値と市場価値の両方の価値を把握する必要があることです。そこで今回は不動産の使用価値と市場価値についてとりあげます。

  2. 不動産の使用価値と市場価値 明確な定義があるわけではありませんが、不動産の使用価値と市場価値はおよそ次の様に捉えられています。
    〔不動産の使用価値〕
     当該企業がその不動産を利用することによって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値のことです。
    例えば、自社の製造工場の場合には、その工場が生みだすキャッシュ・フローの価値となります。
    〔不動産の市場価値〕
     不動産の時価(市場価値)文字通り市場で売却可能な価格のことです。
    なお、厳密には、時価から処分費用見込額を控除することにより正味の売却価額(正味売却価額という)を求める必要があります。
  3. 最後に  例えば、昔、工場用地として購入し長年自社で操業を続けているうちに、市街化が進み、今ではマンション用地や商業用地として利用可能な状況となっている場合はどうでしょうか?自社工場としてそのキャッシュ・フローに基づく使用価値は3億円だけれども、売却可能な価額である市場価値は10億円であるというケースはよく考えられます。
     使用価値3億円 < 市場価値10億円

    含み益が評価されていた時代にはただ保有し続けることでO.Kでしたが、最近は差額に着目した企業買収の対象となる場合もあります。もっとも、ただ売却すればいいというものではなく、企業ブランド、上場・非上場の別、事業承継対策、税金対策、工場の雇用の問題、移転コスト、さらには簿価なども総合的に考慮したうえで合理的な意思決定を行う必要があります。

以上