コラム(詳細)

第81回「早期売却価格(その1)」

2011.01/25

経済レポート2337号[平成23年1月25日]掲載

  1. はじめに

    通常の時価の場合には合理的な市場条件を前提として評価額を査定します。合理的な市場条件としては、売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないことや対象不動産が相当の期間市場に公開されていること等が必要であるとされています。

    ところで、再生・倒産・私的整理等の手続における不動産評価を依頼された場合には、通常とは異なった価格概念の基で評価を行うケースがあります。これは、法の目的や債務者のおかれた状況等を反映したものです。今回は、このうちの1つである早期売却を前提とした価格(いわゆる早期売却価格)についてとりあげます。

  2. 早期売却価格とは

    早期売却価格とは、社団法人日本不動産鑑定協会の文献によれば、「債務者が倒産した状況を前提に、直ちに不動産を処分し、事業を清算することを想定した価格であり…<中略>…早期の処分可能性を考慮した…<中略>…処分価格である」とされています。要するに、直ちに不動産を処分する必要性等があることから、その分お安くなりますよということです。

      

    実務上の評価の方法としては、まず一般の市場を前提とした市場価値を表示する適正な価格(正常価格)を求め、次に早期売却に伴う減価を行って、早期売却を前提とした早期売却価格を求めることが一般的です。

    早期売却価格

  3. 具体例

    例えば、財産評定に係る不動産評価を行う場合でも、法に応じて次のとおり取扱が異なります。

    財産評定に係る不動産評価

    (注)民事再生法の財産評定の目的は再生計画による配当と破産手続による配当を比較検討するためです。一方、会社更生法は適正な財政状態を明らかにすることを目的としています。

  4. 最後に

    以上のとおり、財産評定ひとつをとってみても取扱いが異なりますし、同じ法律のなかでも局面に応じて種々の取扱いがあります。まして、私的整理の場合には、再建計画や採用スキーム等に係る要因もあり、価格概念は一層複雑なものとなります。

    なお、上表のとおり、場合によっては事業継続を前提とした評価を行うケースもあり、この場合には現状の事業が継続されるものとして当該事業の拘束下にあることを前提とした評価となることから、事業経営に基づく収益価格が標準となります。具体例としてはホテル等があります。

以上