第82回「早期売却価格(その2)」
2011.02/22
経済レポート2341号[平成23年2月22日]掲載
- はじめに
前回、再生・倒産・私的整理等の手続きにおいて用いられる早期売却価格の概念についてふれました。
早期売却価格とは、社団法人日本不動産鑑定協会の文献によれば、「債務者が倒産した状況を前提に、直ちに不動産を処分し、事業を清算することを想定した価格であり…<中略>…早期の処分可能性を考慮した…<中略>…処分価格である」とされており、要するに、直ちに不動産を処分する必要性等があることから、その分お安くなりますよということでした。
また、法や局面、再建計画、採用スキーム等に応じて価格概念が複雑であり、場合によっては、当該事業の継続を前提とした評価を行うケースについてもとりあげました。
- 実務上の留意点
前述のとおり価格概念が複雑であり、法や局面、スキーム等に応じて取扱いがことなることから、注意が必要です。例えば財産評定の場合、民事再生法では早期売却価格ですが会社更生法では通常の時価となります。なお、社団法人日本不動産鑑定協会から、各局面ごとの取扱いマニュアル(留意事項)も出されていますが異論もあります(特に担保権消滅許可に係る評価については正常価格説もあります)。
再生・倒産の現場には、ステークホルダー、様々な立場のプレイヤーが多く存在し、言葉の定義も明確ではないことから、例えば、ひとくちに「処分価額」といっても、普通に売却するの意、直ちに処分するの意、スクラップにするの意、事業継続価値で直ちに処分するの意、更地化するの意、仲介手数料等の処分費用を控除した後の価額の意などがあり、現場ではこれらの意が相当混乱して用いられていますので、留意が必要です。
なお、正常価格でなければ同意しない(早期売却価格を認めない)債権者が存在することもあります。
- 評価上の留意点
個人的には、早期売却の早期にも幅があるのではないか?物件やスキームによっては早期売却を前提とすることが適切でないこともあるのではないか?不動産の高騰期に早期売却の概念は成立するのか?そもそも早期売却市場といったマーケットそのものがないのではないか?等早期売却の概念を巡ってはこれといった明確なもの(確立されたもの)はないのではないかと思います。
- 最後に
実務家の立場で思えば、橋本内閣の金融再生トータルプランを契機に、不動産不況下・地価下落下のなかで不良債権処理を強力に促進するための苦肉の策として、早期売却なる概念が編み出され、次第に定着していった感が強くあります。
以上