第29回「動産鑑定士制度の創設」
2006.08/29
経済レポート2125号[平成18年8月29日]掲載
先般、経済産業省は「動産鑑定士」の資格制度を創設することを公表しました。
今回は、閑話休題、動産の評価についてとりあげます。
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はじめに
[1] 背景
動産の評価が必要とされる背景は、動産担保融資の普及にあります。動産を担保に使えるようにし、不動産や保証に過度に依然しない事業キャッシュフローを活用したABL(アセット・ベースト・レンディング:動産・債権等担保融資)の普及を促し、企業の資金調達の多様化や金融機関の目利き能力の向上を図ろうとするものです。[2] ABLとは
ABLとは、企業が保有する売掛債権・在庫等の動産の事業収益資産を担保とし、その内容を常時モニタリングし、資産評価の一定割合を上限に融資を行う手法です。従来は実務の煩雑さや法的権利の不安定性がネックでしたが、公示制度の整備やITによる在庫管理の高度化などにより、活用可能性が拡大してきたと考えられています。
また、コベナンツ(借り手が貸し手に対して行う約束)の設定や事業収益資産の詳細な情報を含む経営状況を定期的に報告することから、事業内容が把握しやすくなります。これにより、金融機関の目利き力の向上による商流金融の高度化につながり、バランスシートだけでは見えなかった真の企業価値を把握する機能を持つことも期待されています。
なお、ミドルリスク・ミドルリターンの融資手法と位置づけられています。 - 在庫の担保価値の算定
[1] 担保価値の算定方法
在庫の担保価値を算出する方法としては、次の三種類があります。(1)
売買比較アプローチ算出法
対象商品もしくはその近似品の売買事例を比較検討し、評価金額を算出する手法で、在庫の担保評価としては最も一般的な方法。(2)
収入アプローチ算出法
不動産鑑定における「収益還元法」とほぼ同様の方法。レンタル用機器・器具等の評価に使用することが可能。(3)
費用アプローチ算出法
不動産鑑定における原価法とほぼ同様の方法。[2] 価格の種類
基本的に次の三種類があります。(1)
公正市場価格(Fair Market Value、略称FMV)
通常の取引において決定される価格。すなわち、物件の売手がなんら強制されることなく、必要な時間をかけて買手を見つけられる状況を想定した売却価格。(2)
通常(静態的)処分価格(Orderly Liquidation Value、略称OLV)
債務者の破綻により商品(ブランド)価値がある程度低下することを前提に、半年から1年程度の合理的な期間内に買手を見つけられる状況を想定した売却価格。時間的な余裕をもって、既存の販売チャネルや一般事業者への販売、一部オークションや買取業者を利用して処分を行うことを想定しています。(3)
強制処分価格(Forced Liquidation Value、略称FLV)
限られた期間内にオークションなどで強制的に処分しなければならない状況を想定した売却価格。オークション・バリュー(Auction Value)、またはディストレス・バリュー(Distress Value)ともいう。強制処分価格は通常処分価格より20~30%程度は低くなるといわれています。評価額の算出については、貸し手の目的や商品の特性から、上記価格の一つのみを検討する場合もあれば、異なる処分シナリオを想定しながら複数について検討する場合もあります。
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最後に
ピアノを担保にした事例などパイオニア的な取組みも始まっていますが、普及促進に当たっては、法制度、商慣行、処分マーケット、評価システム、プレーヤー等の様々なインフラ整備が必要とされており、動産鑑定士制度の創設もこの一環です。ABLは新経済成長戦略における具合的施策として織り込まれており、今後の動向が注目されるところです。
以上