第97回「減価償却と不動産評価(その1)」
2012.05/29
経済レポート2402号[平成24年5月29日]掲載
- はじめに減価償却には様々な側面(機能、役割)があります。例えば、時の経過に伴う価値減を表わすものであったり、取得した(投下した)資金の回収であったり、費用の配分、適正な損益の把握、節税効果等もあげられます。不動産の評価においても、様々な局面で減価償却的な考え方が反映されていたり、収益を査定する際に減価償却費を含める場合と含めない場合等があります。今回から、シリーズで不動産評価における減価償却についてとりあげます。
- 資産評価の尺度としての減価償却建物、機械装置、車両等の資産は、一般的には年を経過するごとにその価値が減っていきます(減価していきます)。一方で、土地や骨とう品のように単なる時の経過だけでは価値が減少しない資産もあります(前者を減価償却資産といいます)。また、減価償却の方法としては、会計上、定額法、定率法等があります。不動産評価上、最も、この考え方を反映しているのは「原価法」であり、特に建物評価における原価法はこの典型例です。
- 建物評価における原価法建物評価における原価法とは、現時点における再調達原価(この建物を、今、新築するとすればいくらコストがかかるか)を求め、これに減価修正を行って、試算価格を求める手法です(この手法による試算価格を積算価格といいます)。
減価修正を行う場合に、この減価償却的な考え方が出てきます。不動産評価の場合は、画一的に、定額法や定率法等を採用することは少なく、対象建物の実情等に即して行います。また、偶発的に破損等が生じるケースや周辺環境と不適合となってしまっている場合もあることから、観察減価と称して時の経過以外の要因も反映させるようになっています。
- 最後に税務上は、用途や構造に応じてあらかじめ耐用年数が財務省令の別表に定められていますが、不動産の評価上は、この耐用年数よりも経済的残存耐用年数(あと何年経済的に使用できるか)に重点をおいて判断が行われます。この場合、今後の単なる建物の使用収益状態だけではなく、建物がおかれている立地環境等をも勘案するなかで判断が行われます。なお、IFRS(国際財務報告基準)では、税務上の耐用年数をそのまま使用せず、会社が使用可能期間を適切に見積る取扱いとなっており、まさにコペルニクス的転回といえます。
以上