第96回「震災補正率」
2012.04/24
経済レポート2398号[平成24年4月24日]掲載
- はじめに先般、平成24年の地価公示価格が発表されました。これによりますと東日本大震災の被災地では「岩手県は前年と同程度の下落率を示し、福島県は前年より大きな下落率を示しているものの、宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が出る等、被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られる」結果となりました。但し、今回の地価公示では、津波により甚大な被害を受けたり、原発事故の影響を大きく受けた地点については調査を休止等しています。
こうしたなか、「東日本大震災の被災地における市街地整備事業の運用について(ガイダンス) 平成24年1月 国土交通省都市局」(以下「ガイダンス」という)において、「防災集団移転促進事業に係る土地評価」の説明がなされており、今般、社団法人日本不動産鑑定協会からも係る評価について研究報告がなされました。今回は、この研究報告書を基に概略をとりあげます。
- 土地評価の方法
- (1)評価の前提
- ガイダンスでは、「移転促進区域内の宅地等を買い取る際の価格の評価については、一般の公共事業により用地を取得する場合と同様に、契約締結時における正常な取引価格により算定すること。」としています。従って、被災地においても一般の公共事業用地の取得に準じて補償が行われます。
- (2)評価手法
- ①被災後の適切な取引事例が収集できる場合
- 当該取引事例を基に評価します。
- ②被災後の適切な取引事例がない場合
- まず、被災前の取引事例を基に「震災が発生しなかった場合の価格」を求め、次に、当該価格に「震災の影響による価格形成要因の変動に伴う価格の補正(震災補正)」を適切に行って評価します。
- (算定式)
- P=A×α
- P:対象不動産の価格
- A:震災が発生しなかった場合の価格時点における対象不動産の価格
- α:震災補正率
- また、次の増減価要因等も併せて考慮し総合的に判断することとされています。
- (減価要因)
- イ.震災に伴う土地需要の減退
- ロ.道路や鉄軌道が損壊したことによる土地の効用価値の減少
- ハ.災害危険区域の指定(今後指定されることとなるものを含む。)に伴う建築制限等による土地の効用価値の減少等
- (増価要因)
- ニ.震災後のインフラ等の復旧や地域経済の回復の見通し
- ホ.復興計画等による将来における当該宅地等の効用価値の見通し等
- ①被災後の適切な取引事例が収集できる場合
- (1)評価の前提
- 最後に東日本大震災に関連する不動産評価については大変難しいものがあります。本稿はガイダンスに示された移転促進区域内における公共事業の評価について概略をとりあげたものであり、被災地の全ての土地評価にあてはまるものではありません。お含み置きください。
なお、宮城県が被災した沿岸市町で行った不動産鑑定評価によると、「被災がなかったと仮定した評価額と比べた場合、その割合は61%~100%であり、平均は84.6%、宅地は70%台が最も多い」との結果が出ています。
以上