第99回「減価償却と不動産評価(その3)」
2012.12/13
経済レポート2410号[平成24年7月24日]掲載
- はじめに 減価償却には様々な側面(機能、役割)があります。前々回は「時の経過に伴う価値減(減価)の側面から資産評価の尺度としての減価償却」、前回は「取得した(投下した)資金の回収との側面から自己金融効果としての減価償却」をとりあげました。
今回は、費用の配分、適正な損益の把握との観点から、減価償却と不動産評価についてとりあげます。 - 費用の配分、適正な損益の把握としての減価償却 建物等の減価償却資産を購入した場合、購入したときに全額費用に計上するのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたって分割して費用計上していきます。つまり、減価償却とは、長年にわたって使用するものはそれに応じて費用にあげるという、費用配分の原則に基づいて各事業年度ごとに取得原価を配分するものであり、現金(キャッシュ)の支出を伴わない費用です。
不動産評価上、最も、この考え方を反映しているのは「収益還元法」です。 - 収益還元法 収益還元法とは、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより試算価格を求める手法です(この手法による試算価格を収益価格といいます)。
収益還元法には、直接還元法、DCF法等様々なバリエーションがあります。ちまたで、あの物件の利回りは○%という言い方をすることがありますが、減価償却費を含んでいる場合と含んでいない場合があります。収益の把握の仕方、割引率や還元利回りの査定にあたっては、減価償却後のものか償却前のものかによって大きく結果が異なりますので注意が必要です。 - 最後に 適切な損益の把握や収益の還元方法の仕方として、この減価償却費をどのように取扱うのかは議論の別れるところです。物件に即して的確に判断するとしかいいようがありませんが、昨今はどちらかというとキャッシュフローを重視する傾向が強いように思われます。特に稼動中の企業収益に基づいて収益還元法を適用する場合には、EBITDA(税引前利益+支払利息+減価償却費)を用いることが多くなっています。
なお、将来の大規模修繕費等の資本的支出に備えて、期中のキャッシュフローから一定額(年平均額)を毎年計上することもあります(キャッシュリザーブするといいます)。
以上