第150回「事業性評価と不動産評価」
2017.03/16
経済レポート2613号[平成28年10月18日]掲載
- はじめに 最近、事業性評価融資というフレーズをよく耳にします。これは、金融庁の方針で、「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(「事業性評価」)、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる。」とするものです。
- 不動産の評価 不動産評価の手法には、取引事例比較法、原価法、収益還元法、開発法等の様々な手法がありますが、バブル崩壊以前(土地神話崩壊以前)は、取引事例比較法が専らでした。つまり、事業を行うことによって得られる価値と不動産の価格は別ものといった考え方です。
ところが、近年、不動産鑑定では、事業の経営動向に強く影響を受けるオペレーショナルアセット型の不動産を事業用不動産と再定義し、証券化の進展や不動産市場の変化にあわせる形でその評価方法を整理・充実(特に収益還元法)させています。 - 事業用不動産評価の基本的な考え方 具体的な事業用不動産としては、ホテル等の宿泊施設、レジャー施設、医療・福祉施設、ショッピングセンター等の商業施設等があげられますが、事業用不動産の特性から、収益還元価値が重視されることとなります。
まず、大前提として事業用不動産の収益は、当該事業採算の範囲内であることが通常であること。この場合、現実の運営者でなく、通常想定される事業者による運営を前提に収益性を把握すること。(対象不動産自体のポテンシャルに基づく評価であり、ポテンシャル評価等といわれています。)
次に、収益性の分析方法としては、実際の経営状況の把握(内部環境の分析)、事業経営の外部環境、トレンド等の分析に基づき中長期安定的な観点からの収益性の把握が求められます。 - 最後に 金融機関が事業性評価を行う際に使うであろう、収益構造分析、SWOT分析、4C分析、ポジショニング分析等といった手法の考え方は、事業用不動産の評価にあたっても考慮されます。この様に考えると、一部の不動産については、事業性評価に基づく価値と不動産評価(価格)はかなり近づいてくる(相関関係が高くなる)のではないでしょうか。
事業性評価は、よく「目利き力の発揮」と言い換えられることがあります。不動産の評価にあたっても、従来型の目利き力に加えて事業性の観点からの分析といった新たな目利き力が求められています。
以上
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