第172回「裁判所のなかの不動産鑑定…その3借地非訟事件」
2019.01/15
経済レポート2702号[平成30年8月28日]掲載
- はじめに シリーズで「裁判所のなかの不動産鑑定」を連載しています。3回目の今回のテーマは「借地非訟事件」です。
まず、「非訟(ひしょう)事件」とは、「訴訟事件」と対立する概念です。訴訟事件が、事実を認定して法律に当てはめて判決という形で結論を出すのとは異なり、非訟事件は、裁判所が後見的な立場から妥当と考える判断を決定という形で示す手続類型をいいます。 - 借地非訟手続 借地については、この非訟制度が導入されており、借地非訟事件として取扱うことができるものは次の5種類です。
一例をあげると、借地人が借地上の建物を売却したいと考え、地主に承諾を求めたけれど、地主が承諾してくれない場合に、借地人が裁判所に申立を行って、裁判所が、これを認めるのが相当であると判断した場合に、地主の承諾に代わる許可を与えることができるといった手続きです。このケースですと、たとえ地主が頑として承諾しなかったとしても、裁判所が、地主に替わって、承諾という新たな法律関係を形成し、売却できるようになるわけです。
なお、裁判所は売却や増改築等の申立を認める場合、地主に負担を与えることになるため、借地人に対して地主へ金銭を支払うよう命じることが少なくありません(一般に条件変更承諾料、建替承諾料、名義変更料などといわれています。)。 - 鑑定委員会制度 裁判所は、この手続のなかで、事件ごとに、弁護士、不動産鑑定士及び有識者(建築士を含む。)から当該事件の特色を踏まえて3人以上の鑑定委員を指定し、公正な立場からの専門的かつ客観的な意見を聴きます。(これを鑑定委員会制度といいます。)
鑑定委員会は、必要な資料の収集をした上で、裁判所から意見を求められた事項(許可をすべきか否か、その場合の承諾料の金額等)について、評議した結果を「意見書」として、裁判所に提出することになっています。 - 最後 最終的には、鑑定委員会の意見書を踏まえ、裁判所が決定という形で判断を示しますが、裁判所は、適宜、当事者に和解による解決を勧めることがあります。借地関係は、継続的な信頼関係に立脚するものですから、なるべく円満な解決が望ましいとする考え方からです。
なお、全国の借地非訟事件の受理件数(昭和42年から平成25年まで)をみると、ピークが平成2年の1,411件(そのうち東京地裁本庁が38.06%)、ボトムが平成23年の252件(同52.38%)、近年の平成20年~25年の平均は302件(同52.94%)となっています。いかに東京のウェイトが高いかもわかります。ちなみに筆者の推測では、広島地裁本庁においては、1年に1件あるかないかと思われます。
以上
参考文献:裁判所 HP、借地非訟の実務(植垣勝裕編集)
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