第183回「配偶者居住権の評価(案)」
2019.12/12
経済レポート2745号[令和元年7月16日]掲載
- はじめに 民法の相続に関する規定(相続税)がおよそ40年振りに大改正され、順次施行されています。令和2年4月1日からは、いよいよ「配偶者居住権」が施行されます。これは、被相続人の死亡後も配偶者が生前と同様の生活環境の下で安心して生活することができるようにとの趣旨で、新たに創設された権利であり、その評価手法が注目されていました。少し気の早い話ですが、今回は現在パブコメ中の配偶者居住権の評価(案)についてとりあげます。
- 配偶者居住権とは 配偶者居住権の主な特徴は次のとおりです。
・無償である。(但し、通常の必要費は負担)
・存続期間は配偶者の死亡まで(終身)。但し、存続期間を定めることもできる。
・譲渡禁止。第三者に対抗するためには登記が必要
この様に、配偶者居住権は、終身かつ無償(但し、実質的には賃料一括先払いと同視できる)、譲渡不可、配偶者の死亡によって当然に消滅し、相続の対象とならない一身専属権です。
- 配偶者居住権の評価(案) 配偶者居住権はこの様に新たに創設された権利であり、不動産鑑定評価基準に評価手法の規定がありません。そこで、現在、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会から、実務指針(案)がパブリックコメント中です。
このパブコメ中の案では、まず、対象の土地建物の評価額を求め、この評価額を次のとおりそれぞれの方法で求められた「配偶者居住権の経済価値」と「配偶者居住権が付着した土地建物の経済価値」の構成割合(価格比)で配分する(内訳価格として求める)としています。また、個々の求め方の方法は次の案です。
・配偶者居住権の経済価値
(対象建物の賃料相当額-必要費)× 逓増年金現価率 … 経済的利益還元法
・配偶者居住権が付着した土地建物の経済価値
配偶者居住権消滅時の土地建物の価格 × 複利現価率 … 権利消滅時現価法 - 最後に 上記の評価手法は、相続に伴う遺産分割等によって配偶者居住権が新に設定される局面に限ったものです。ところで、配偶者居住権そのものは譲渡できませんが、配偶者居住権が付着した土地建物は譲渡可能であり、今後、市場に出回る(流通する)可能性があります。この様な局面での評価手法はまだ決まっていません。(買主にとっては配偶者が生存中は家賃が入ってきませんが、死亡後は自由にできます。実際のマーケットでは健康状態までも考慮することとなるのでしょうか?)
ちなみに、フランスでは住宅の終身の用益権があり、これを利用した「ビアジェ」という売買(取引)契約があります。これはギャンブルとか悪魔のような買い物といわれています。配偶者居住権が付着した土地建物の売買は「日本版ビアジェ」となるのでしょうか。
(注)配偶者居住権の税務上の評価(税務上の取扱い)は、紙面の都合で割愛しますが、既に公表されています。
以上
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