第220回「気候変動(機会とリスク)」
2023.01/31
経済レポート2895号[令和4年8月30日]掲載
- はじめに 前々回から、ESG、SDGs、持続可能性(サステナビリティ)といった世界的潮流、非財務情報の開示、新しい企業価値、ソフトロー、ハードロー、名ばかりESG、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言にふれました。今回は、気候変動の機会とリスクを具体的にとり上げます。
- 不動産分野におけるTCFDガイダンス
環境省、経済産業省等で、既に、気候変動に対するそれぞれの分野に関してガイダンスが出されていますが、不動産分野においては、令和3年3月に国土交通省が、日本の不動産分野に特化したガイダンスを策定しています。(不動産分野における「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言」対応のためのガイダンス)
このガイダンスでは、不動産分野に特化しつつ、TCFD提言の経緯や制度概要、前提となる情報、海外事例やシナリオ分析の例等を実施イメージが分かるように解説しています。 - 不動産分野におけるリスクと機会の例
本ガイダンスでは、気候変動のリスクと機会を次の様に整理し、当然ですが、リスクを最小化し、機会を最大化することを求めています。
【リスク】
☐炭素税・規制導入による運用・調達コスト増加
☐新技術・設備への切替コストの増加
☐顧客・従業員からの評判低下による競争力低下
☐投資家/金融機関からの評判低下
☐価格高騰などによるエネルギーコスト増加
☐規制強化による公的セクターの市場増加
☐風水害激化による建物損壊・事業停止リスク増
☐風水害激化による従業員の健康と安全リスク増
☐平均気温の上昇による操業コストの増加
☐干ばつや気象パターンの変化による水リスク増大
☐海面上昇による資産価値低下や浸水被害増加
☐環境変化による保険料増加
【機会】
☐環境認証/低炭素ビル・不動産の需要増加
☐自社オフィスのエネルギー高効率な建物への移転によるランニングコストの減少
☐新規市場への参入による収益の増加
☐技術革新による建設コストの低下、新規技術・製品の展開機会増加
☐投資家/金融機関の評判向上
☐公的機関のインセンティブ使用機会増加
☐災害に強いビル・不動産の需要増加
☐不動産の補修・補強によるレジリエンス上昇
☐投資ポートフォリオの見直しによるレジリエンス強化 - 最後に
自然災害や気候変動といった課題に直面するなかで、気候変動によるリスクと機会を整理する対応力と実行力が求められていることに加えて、非財務情報として開示を促されている方向性にもあり、どの様に発信するかも問われています。
なお、ESGへの配慮は、現時点では財務情報に反映されていないことが多く、主として、将来的に利益をもたらすものであること等から、将来実現する可能性が高い「未財務情報」といういい方もあるようです。
以上
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(不動産鑑定士)
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