コラム(詳細)

第3回「短期賃貸借制度の廃止」

2004.06/01

経済レポート2017号[平成16年6月1日号]掲載

 

「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」が4月1日から施行されました。これにより短期賃貸借制度は廃止されることとなり大きな影響がありそうです。

  1. 短期賃貸借制度とは
    建物についていえば3年を超えない短期の賃貸借をいい、たとえ競売になっても建物を引続き利用することができる制度です。この制度の主旨は、抵当権者と抵当不動産利用者との調整にありましたが、競売不動産の執行妨害の手段として悪用されるケースが目立つ等の弊害も指摘され、今回、廃止に至りました。
    今後は、抵当権に後れる賃貸借は、抵当権者や競売の買受人に対抗することができなくなります。
  2. 廃止に伴う新しい制度

    (1) 

     6ヵ月間の建物明渡猶予期間
    借主の保護を図るため、建物については買受人の代金納付から6ヵ月間に限り、明渡猶予を受けられることとしました。

    (2) 

     抵当権者の同意制度
    賃貸借に優先する全ての抵当権者が同意をし、その同意について登記がされたときは、当該抵当権者や競売の買受人に対抗することができることとしました。

  3. 注意点

    (1) 

    敷金
    抵当権に後れる賃借権者が差し入れた敷金は買受人に承継されないこととなります。従って、旧所有者に敷金の返還を請求することになりますが、競売申立をされているような状況ですから、まともな返還はあまり期待できないと思われます。

    (2) 

    内覧制度
    今般の改正で内覧制度が創設されました。これは、競売手続において、差押債権者の申立があるときは、買受希望者にあらかじめ競売不動産の内覧を認める制度で、手続を経て日時を定め、不動産の内部を見学することが可能となりました。
    差押債権者がこのオプションを行使した場合には、差押債権者等に対抗できない占有者は正当な理由なく立ち入りを拒んだときは罰金に処せられる場合があります。

    (3) 

    経過措置
    施行日(本年4月1日)後に新たに賃貸借契約する場合に新法が適用され、施行日前からの短期賃貸借契約については旧法の規定が適用されるので注意が必要です。

  4. 影響等
    競売の買受人としては、明渡猶予期間である6ヵ月間の建物使用に対する代金の不払等に対するリスクはありますが、賃貸物件として継続して収益を得ようとする場合には、テナントの入替え(選別)によるバリューアップが可能となる等の側面もあります。    
    一方、今回の改正により、抵当権者の同意制度を利用しない限りは、テナント(借主)はほとんど法的な保護が受けられないことになります。最悪の場合、[1] 突然の契約中途での立退き、[2]
    敷金が返ってこない、[3] 内覧のオプションを行使されれば内部を見学されるといった事態にもなりかねません。    
    なお、仲介業者等はこれらのリスクを事前に入居希望者に伝えることが望ましいと思います。
    今後は、単にビルの立地条件や設備の良し悪しだけではなく、所有者の資産状況、抵当権の設定の状況、抵当権者の属性・同意の有無等も入居の選定や評価に影響を与えるものと思われます。
  5. 最後に(最低売却価額制度の見直し)  
    短期賃貸借制度の廃止の外、今般の改正により、担保不動産収益執行手続の創設、滌除に代わる抵当権消滅請求制度等大きな見直しが行われました。 また、今国会に、競売の「最低売却価額」を「売却基準価額」に改め、売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した価額以上での入札を認める法案が提出されています。

(注)わかりやすさを重視したため、法律用語が正確でないことや、要件等が網羅されていないところがあります、ご留意下さい。

以上