第32回「賃料評価(その1)」
2006.11/28
経済レポート2138号[平成18年11月28日]掲載
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はじめに
ご周知のように、1980年代後半から90年代にかけてのバブル発生とその崩壊に伴い賃料の改定を巡って当事者間で対立や紛争が頻発しています。その上、サブリースやオーダーリース契約等の新種の賃貸借契約を巡る司法の判断も当初は裁判所間で大きな相違が見られました。
また、東京高裁判決(平14.10.22第19民事部)では裁判所が独自に評価手法を編み出すにまで至っています。 -
新規賃料と継続賃料
[1] 新規賃料
新規賃料とは、「新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料」をいいます。[2] 継続賃料
一方の継続賃料は、「継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」をいいます。[3] 両者のちがい
新規賃料は、初めて賃貸借等の契約を結ぶときの賃料ですから、貸主と借主に縁故関係等の特殊な事情がなければ、市場における合理的な競争関係の中でその額は決定されます。いいかえれば、当事者の自由意思に基づいて、両者納得のうえで決定されます。
ところが、継続賃料では当事者は通常長期間継続した関係の中にあり、賃借物に資本投下をしている、固定客がついている、地域活動を行っている、引越しに費用がかかる等の理由によって賃料に不満があっても容易に契約関係を解消できない立場におかれていることが往々にしてあります。この様な当事者間においては賃料改定の合意が成立しない場合もあります。一般的な経済状勢だけでなく場合によっては個別な事情にまで踏み込んで評価を行うこともあり、継続賃料の評価は難しい評価といわれています。 -
評価手法
新規賃料を求める場合の手法
(a)積算法
不動産の有する元本価格に着目する手法
(b)賃貸事例比較法
類似の事例に着目する手法
(c)収益分析法
企業収益に着目する手法継続賃料を求める場合の手法
(a)差額配分法
新規賃料との差額に着目する手法
(b)利回り法
元本価格と利回りに着目する手法
(c)スライド法
経済情勢の変化に着目する手法
(d)賃貸事例比較法類似の事例に着目する手法
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評価額の決定
上記の手法を併用して最終的な評価額を決定します。例えば、継続賃料の評価
であれば4つの手法を適用して4試算賃料を求め、事案に応じて総合的に関連づ
けて評価額を決定することとなります。
次回からシリーズで各手法について掘り下げていき、東京高裁判決の新評価手
法についても言及したいと思います。
以上