第170回「裁判所のなかの不動産鑑定…その1(民事訴訟における不動産鑑定)」
2018.11/15
経済レポート2693号[平成30年6月19日]掲載
- はじめに 裁判所では、不動産鑑定士の知見が活用される局面が多くあります。今回から、シリーズで裁判手続の類型ごとにとりあげてみます。
1回目のテーマは、「民事訴訟における不動産鑑定」です。 - 民事訴訟における不動産鑑定 まず、民事訴訟における「鑑定」とは、学識経験を有する者(鑑定人)に、専門的知識や専門的な経験則を適用した具体的な事実の判断を報告させ、裁判官の知識や判断を補充するための「証拠調べの方法」を言います。複雑な専門的意見や評価を述べることから、裁判所や当事者(第1審であれば原告・被告)が正確に理解できるよう、鑑定書(意見書)という書面をもって意見を述べることになるのが通常です。
民事訴訟において不動産の鑑定が採用されるケースとしては、土地や建物の賃料の増減額請求訴訟において相当賃料を把握したり、不動産の共有物分割訴訟で時価を把握するために、不動産鑑定士に鑑定を依頼する場合等が挙げられます。 - 公的鑑定書と私的鑑定書 裁判所は、当事者からの鑑定の申出を受けて、鑑定を実施することを決定し、鑑定人を指定します。このように、鑑定とは、訴訟手続において裁判所として行うものですが、これとは別に訴訟当事者から、鑑定書が証拠として提出されることもあります。(前者を「公的鑑定書」、後者を「私的鑑定書」と俗称しています。)
私的鑑定書を提出するかどうかは、当事者が当該訴訟に有益か否か等を考慮して決めることであり、当事者の自由です。
先ほどの賃料増減額訴訟を例に取れば、賃貸人と賃借人のそれぞれが見解の異なる私的鑑定書を証拠として提出して自らの主張の裏付けとし、そのうえで、さらに裁判所による鑑定が行われ、公的鑑定書が提出されるといったケースもあります。 - 最後に 公的鑑定書と私的鑑定書については、その証拠価値、活用方法、実施のタイミング等を巡って様々な見解がある様です。また、鑑定は裁判所の知識や判断を補充するものであり、裁判所は鑑定意見に拘束されるわけではなく、鑑定結果と異なる判断を行うことも可能ですが、賃料増減額訴訟や共有物分割訴訟においては、多くのケースで裁判所による鑑定(公的鑑定)が行われ、その内容が裁判所の判断に大きな影響を与えることが一般的です。
なお、鑑定は行わないとしても裁判所が専門家の説明を聴きたいといった場合には、当事者双方の了解を得た上で、不動産鑑定士の資格を有する専門委員や司法委員を活用するといった運用もあります。
次回は、簡易裁判所の民事調停をとりあげます。
以上
参考文献:企業法務のための民事訴訟の実務解説 圓道至剛 著
監修:弁護士法人 御堂筋法律事務所 広島事務所
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代表取締役 小川 和夫
(不動産鑑定士)
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