第186回「立退料の評価(その1)」
2020.03/13
経済レポート2757号[令和元年10月15日]掲載
- はじめに 家主が賃貸借契約を更新拒絶したり、解約の申込をしたりする際には「正当事由」が必要とされています。この様に借家人は権利が保護されており、立退料は、家主が経済的対価を借家人に支払うことによって現実的な解決を図ってきたことが慣行化したといわれています。(旧借家法では、立退料に関する定めはありませんでした)。
そこで、今回から、シリーズで立退料をとり上げます。
- 正当事由とは 立退料を考える場合、まず、「正当事由」について理解しておく必要があります。一般の賃貸借契約の場合、その期間が満了したり解約の申込みをしたりするとその契約は終了します。ところが、建物については(土地もですが)、借家人保護のために「正当事由」を要するとされています。これは、借家人は家主に比べて弱者であるとの発想に基づいています。なお、正当事由については、強行規定でありこれに反する契約を定めていても無効となります。
では、正当事由の判断にあたっては何が考慮されるのでしょうか。主として家主と借家人が建物の使用を必要とする事情、従前の経緯、利用状況を、従として立退料の提供を考慮するとされています。 - 立退料の支払いは必要か この様に、家主が借家人に対して建物の明渡しを求める場合、正当事由が必要となります。立退料は正当事由の補完的要素とされており、正当事由の充足度によって立退料の多寡が決するとされています。したがって、正当事由が満たされる場合には立退料が必要ないこともありえます。
なお、正当事由がないと賃貸借が終了できないことは「一度貸したら返ってこない」との批判や供給の妨げになるとの趣旨から、法改正もなされており、必ず終了できる定期借家権(土地の場合は定期借地権)も導入されています。この契約の場合は当然ながら立退料の提供は不要です。 - 立退料とは 立退料は、法的には正当事由を補完するものですが、現実的には立退きに伴う解決金の側面が強くあります。補償料、借家権の対価、明渡し料等の名称で呼ばれることもあり、その内容は契約の個別性や補償の範囲等も反映して広狭様々で、その定義は明確になっていないため、実務上は混乱や混同が生じることが多々あります。
一般に立退料の構成内容は次のとおりとされています。
①移転に伴う費用
②移転に伴い事実上失う利益
③移転に伴い失う利用権
次回から、立退料の具体的な算出方法をとり上げます。【参考文献】
・借地借家・賃料実務研究会(平成26年3月)「Q&A 地代・家賃と借地借家」株式会社住宅新報社
・公益社団法人 福岡県不動産鑑定士協会(平成24年11月)「知って安心!不動産鑑定士のはなし」株式会社梓書院
・研究報告 借家権の鑑定評価に係る論点整理(令和元年6月)公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会鑑定評価基準委員会 借地・借家権評価小委員会策定
以上
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