第200回「土地所有権の放棄」
2021.05/17
経済レポート2813号[令和2年12月15日]掲載
- はじめに 令和2年3月に土地対策の憲法ともいえる土地基本法が平成元年の制定以来、初めてのそして抜本的な改正が行なわれ、所有者不明土地や管理不全土地の増加に伴い、「管理」の観点が大きくクローズアップされています。
この対策の一環として、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案(以下、単に「中間試案」といいます。)」が令和元年12月にとりまとめられました。今回は、この中間試案で示された土地所有権の放棄をとり上げます。 - 土地所有権の放棄を認める制度を創設
この中間試案では、土地所有権の放棄を可能とし、放棄された土地を国等の公的機関において管理する制度を創設するとし、次の点を検討するとしています。
・一定の要件を満たす場合に限定する。
・宅地のみならず、農地や林地についても検討する。
・放棄された土地は国庫に帰属することが想定されるが、地方公共団体が、贈与契約により直接取得する手続きも検討する。
・自然人に限定しているが、法人についても慎重に検討する。
・共有地については、全員の同意の下に、共同で所有権放棄をしない限り、放棄できないとする方向で引き続き検討する。
- 土地所有権の放棄の要件及び手続
土地の管理コストの他者への転嫁や、所有権を放棄するつもりで土地を適切に管理しなくなるモラルハザードが発生するおそれがあるため、限定された要件を満たす場合にのみ、土地所有権の放棄を認めることとし、次の要件を全て満たすことが必要とされています。
①土地の権利の帰属に争いがなく筆界が特定されていること。
②土地について第三者の使用収益権や担保権が設定されておらず、所有者以外に土地を占有する者がいないこと。
③現状のままで土地を管理することが将来的にも容易な状態であること
④土地所有者が審査手数料及び土地の管理に係る一定の費用を負担すること。
⑤土地所有者が、相当な努力が払われたと認められる方法により土地の譲渡等をしようとしてもなお譲渡等をすることができないこと。
(注)③の具体的内容としては、例えば、㋐建物や、土地の性質に応じた管理を阻害する有体物(工作物、車両、樹木等)が存在しないこと、㋑崖地等の管理困難な土地ではないこと、㋒土地に埋設物や土壌汚染がないこと、㋓土地の管理に当たって他者との間の調整や当該土地の管理以外の目的での費用負担を要しないことなどが想定されています。
- 最後に この様に、一定の要件を満たす場合にのみ土地所有権の放棄が認められること(認可制であること)等から、審査機関を設けるスキームとなっています。
建物についても関心が高いところですが、民法には、土地と同様に、建物の所有権放棄についての規定がなく、確立した判例もないことから、その可否は明らかではありませんが、建物の所有権放棄を認める制度は創設しないこととなっており、動産についても創設される予定がありません。なお、上記③の要件によって土地上に建物がある場合は、土地の所有権を放棄することができませんのでご留意願います。
以上
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