第201回「勝者の呪い」
2021.06/14
経済レポート2816号[令和3年1月19日]掲載
- はじめに 令和2年のノーベル経済学賞は、米スタンフォード大学のロバート・ウィルソン氏とポール・ミルグロム氏の「オークション理論」への貢献でした。そもそもオークションには様々な方式(公開型、封印型、競り上げ方式、競り下げ方式等)がありますが、今回のノーベル賞は、SMRA(同時複数ラウンド競り上げ入札)やCCA(組み合わせクロック入札)といった画期的な入札方式を考案したこと等が主な受賞理由とされています。
不動産の売買に関しても、オークション(入札)方式が用いられることがあります。そこで今回は、裁判所で行われている不動産競売と同じ封印型で最も高い入札価格を提示した者が落札できる入札方式を前提に、勝者の呪い等、オークションにまつわるキーワードをとり上げます。 - 勝者の呪い
勝者の呪い(Winner’s Curse)とは、落札して勝者となった者が、落札後に転売で損失を出す等、結果的に損をする現象をいいます。つまり、落札できたことは落札価格が高すぎたのではないかという呪いです。
また、2番目に高い入札価格と大きく落札価格が開いていると、もう少し安くても落札できたのではないかといった「勝者のジレンマ」が生じることもあります。
なお、入札は競争ですから、競争性のあるプライシングをしなければ落札できません。したがって、筆者は、そもそも封印型入札の場合、落札価格と適正価格(公正価値)は必ずしも一致しないと思っています。筆者が分析を行う際に最も注目しているのは2番札の価格です。
- うぬぼれ仮説
一番高値入札をした勝者(落札者)は、自己の能力を過信し、うぬぼれた仮説に基づいて入札を行っている場合があることも指摘されています。例えば、「楽観的な将来予測に基づいてDCF法を適用している」、「出口戦略を楽観的なシナリオで策定している」等が具体例です。購入前の見積り(査定)は、結果と比較すると往々にして甘目であるとする見解もあるようです。
ただ、一方でリスクを過大に恐れたり、ストレスをかけ過ぎたプライシングも考えものです。また、何回か入札に参加していると「どうしても落札したい」といった衝動に駆られて、高値入札をしてしまうバイアスもよく指摘されるところです。
- 最後に ところで、以上は、買い手の立場からの考察でしたが、逆に、売り手の立場にたった場合はどうでしょうか。売り手が、できるだけ高い売却額を期待するならば、売り物の詳細調査(デューディリジェンス)を行うなど、入札参加者の不安や不確定要素をあらかじめできるだけ取り除いておく方法や工夫が必要とも思われます。
以上
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