コラム(詳細)

第212回「心理的瑕疵…その1」

2022.05/16

経済レポート2862号[令和3年12月21日]掲載

  1. はじめに  令和3年10月、国交省が「宅建業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定・公表しました。人の死に関しては、取引等に際して、重要な影響を及ぼす可能性もあり、告知の判断基準を初めて示したものとして、注目されています。減価を要する場合には、「心理的瑕疵」として取り扱うことが多い様です
     そこで、今回から、「心理的瑕疵」を取り上げます。
  2. 「心理的瑕疵」とは
     「心理的瑕疵」とは、裁判例では、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥。居住用の場合には、通常一般人において、「住み心地の良さ」を欠くこと等としています
     これには、従来から、嫌悪施設、忌避施設、迷惑施設と称されていたものと、近年、事故物件、わけあり物件と俗称されるものとがあります。

     前者の具体例としては、建築基準法第51条で定められている、卸売市場、火葬場、と畜場、汚物処理場、ごみ焼却場等を、いわゆる迷惑施設とすることが多く、その外に、住宅地では、次のものがよく例示されています

    現  象 施     設
    騒音や振動の発生 高速道路等の主要道路、飛行場、鉄道、地下軌道、航空基地、大型車両出入りの物流施設 等
    煤煙や臭気(悪臭)の発生 工場、下水処理場、ごみ焼却場、養豚・養鶏場、火葬場 等
    危険を感じさせる ガスタンク、ガソリンスタンド、高圧線鉄塔、危険物取扱工場、危険物貯蔵施設、暴力団組事務所 等
    心理的に忌避される 墓地、刑務所、風俗店、葬儀場 等

    (出典:公益財団法人不動産流通推進センターのHP)

    後者の具体例としては、物件そのものに法令違反、物理的な欠陥等のあるものを総称してわけあり物件とし、その中でも人の死等に関して心理的瑕疵の認められるものを事故物件ということが多い様です。
     また、前者を環境的瑕疵とし、心理的瑕疵とは峻別することが望ましいとする見解もある様です。
     なお、私見ですが、かつては競売物件は忌み不動産であるとするいわれ方もしていましたが、現在では抵抗感はほとんど払拭されているのではないでしょうか。

  3. 最後に
     心理的瑕疵については、人によって感じ方や温度差も大きく、単に上記の様な事象があることをもって、評価上は、必ずしも減価を要するとは限りません。また、心理的瑕疵は、「時の経過によって軽減し、いずれは風化する。ただ、風化する時期がいつなのかの判断にも困難性が伴う」ともされています。
     この様に、明確な定義のない「心理的瑕疵」ですが、今般、居住用不動産の人の死の告知に関してはガイドラインが示されることとなりました。次回は心理的瑕疵をもう少し掘り下げてみます
     余談ですが、筆者は2回だけ、「幽霊が出る」と所有者が告知する物件に出くわしたことがあります。

以上

 

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