第213回「心理的瑕疵…その2」
2022.06/28
経済レポート2866号[令和4年1月25日]掲載
- はじめに 令和3年10月、国交省が「宅建業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定・公表しました。人の死に関しては、取引等に際して、重要な影響を及ぼす可能性もあり、告知の判断基準を初めて示したものとして、注目されています。減価を要する場合には、「心理的瑕疵」として取り扱うことが多い様です。
前回は、「嫌悪施設、わけあり物件、事故物件等」を取り上げました。今回は、「心理的瑕疵」を掘り下げてみます。
- スティグマ
「心理的瑕疵」とは、裁判例では、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥。居住用の場合には、通常一般人において、「住み心地の良さ」を欠くこと等としています。
これには、従来から、嫌悪施設、忌避施設、迷惑施設と称されていたものと、近年、事故物件、わけあり物件と俗称されるものとがあります。
心理的瑕疵と似た概念として、「スティグマ(Stigma)」があります。スティグマとは、もともとギリシアで奴隷・犯罪人であることを示す焼印のことで、聖痕の意で用いられる場合もありますが、英語で「汚点、汚名」という意味です。周囲の否定的なイメージや心理的嫌悪感と捉えられます。
かつては日本の不動産市場で議論されることは多くありませんでしたが、平成15年2月の土壌汚染対策法の施行等、土壌汚染に関する関心の高まりから、スティグマによる減価という問題がクローズアップされるようになりました。土壌汚染に関していえば「土壌汚染がある、または過去にあったということに起因する心理的嫌悪感等から生じる減価」がスティグマとなります。
- 風評被害(レピュテーションリスク)
風評被害(レピュテーションリスク)については、心理的瑕疵から派生する減価もあるとする解釈もある様です。確かにスティグマによる減価には、広い意味で風評被害も含まれるのかもしれません。
なお、最近では土砂災害等、災害リスクの高い物件についてもスティグマや風評被害による減価が発現している可能性があるとする見解もあるようです。
逆に、私見ですが、かつては競売物件は忌み不動産であるとするいわれ方もしていましたが、現在では抵抗感はほとんど払拭されているのではないでしょうか。
- 最後に
心理的瑕疵については、人によって感じ方や温度差も大きく、単に、事象があることをもって、評価上は、必ずしも減価を要するとは限りません。また、心理的瑕疵は、「時の経過によって軽減し、いずれは風化する。ただ風化する時期がいつなのかの判断にも困難性が伴う」ともされています。
この様に、明確な定義のない「心理的瑕疵」ですが、今般、居住用不動産の人の死の告知に関してはガイドラインが示されることとなりました。次回はこのガイドラインを取り上げます。
余談ですが、筆者は2回だけ、「幽霊が出る」と所有者が告知する物件に出くわしたことがあります。
以上
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